根知谷の日々 -Blog-

「コンパクト」そして「シンプル」

 今から30年ほど前の30代は、酒造りの現場での拘束時間が長く、睡眠時間も3時間程度の日が多かったように思います。待機時間を利用して、自社ホームページの更新を頻繁に行い、同時に当時急速に拡大していたミクシィというSNSで情報発信・交流をしていました。

 会ったこともない人たちとの対話は、とても面白く刺激的でした。ホームページでのブログも積極的に投稿し、それなりの閲覧数になっていたことを覚えています。しかし、あまりネット上に過去からの投稿が残るのは好ましくないと思い、ホームページをリニューアルした際に、過去のブログをすべて削除しました。

 思い起こせば30代は社内の体制を大きく変えた激動期でした。製造体制を季節労務の杜氏・蔵人に頼らない、通年雇用の正社員による通勤制・週休制に変えました。1000石程度の零細蔵がこうした取り組みをするのは当時としては非常に珍しいことでした。

 40代になってからは、更に改革を進めて、自社栽培による原料米の高品質化と安定確保に取り組みました。品質の高い日本酒を安定的に造ることを目指していました。設備投資と人材の育成を同時並行してやっていくのはかなり難しいことでしたが、何とかやり遂げて現在に至っています。

 50代からは自社栽培によるドメーヌ・スタイルの価値を広める活動に注力しましたが、60歳を過ぎた今でもまだまだ世の中に浸透しているとは言えない状況です。

 この30年間に日本酒業界は大きく変わり、今や製造技術の競争は行き着くところまで来たように思います。酒造職人として生きてきた私には、「純米大吟醸」に高い価値を見出すことができません。

 30歳を迎えた子供たちの世代にバトンタッチするタイミングになって、今取り組んでいるのは、この根知谷で持続可能な米作り・酒造りの体制をつくることです。農家がどんどん減っていき、中山間地は優良農地にもかかわらず、田んぼの維持が難しくなってきています。

 私たちは「コンパクト」で「シンプル」な仕事・暮らしを目指すことにしました。今住んでいる集落に集中して農地、農道、用水路を維持管理できる体制を築くのが目標です。四季の移ろいを楽しみながら、米と野菜を作り、薪を拾い集めて煮炊きをして、冬は蔵の中で酒造りをする。根知谷を訪れる皆さん、私たちの生産物をお買い上げ頂いている皆さんとの交流を励みにしながら、ゆったりと流れる時間の中で暮らせるようにしていきます。2023.02.04